葉山に唯一残る宮家の別荘【東伏見宮葉山別邸】〜泊まれる111年目の「白亜の館(カサブランカ)」

■富士を眺められる格調高い洋館
いつ訪れても清々しい洋館ですが、11月9日(日)に開催するスペインフェスティバルの取材を兼ねて訪れた10月23日は富士山今季初冠雪の日、いつも以上に清々しさを感じました。

この窓からの景色はNHKの番組「ブラタモリ」(2020年)でタモリさんも見、大正時代にはここを別荘とした東伏見宮依仁親王(ひがしふしみのみや よりひとしんのう)もご覧になられたことでしょう。当時は砂浜も見えたかもしれません。
1867(慶応3)年に生まれた東伏見宮依仁親王はイギリス、フランスに留学後、海軍軍人として功績をあげた人。
この館は1914(大正3)年に竣工。葉山町のHPには「宅地のみで2,602坪、畑山林を含めて8,566坪の広大な敷地に、2階建洋館1棟、2階建和館1棟、平屋建和館1棟が建ち、その他数棟の付属家、温室、四阿(あずまや)などが建てられた」とあります。葉山町には有栖川宮(ありすがわのみや)、北白川宮、東伏見宮、高松宮、秩父宮が別邸を置きましたが、現在は同館のみ残っています。
宮家(菊の御紋)だったことは今もみてとれます。


■1世紀以上が経って現存の危機が
1922年(大正11)年の依仁親王逝去後も別邸として存続しましたが、1953(昭和28)年頃、イエズス孝女会修道院に譲渡されました。洋館と2階建て和館は修道院として、平屋和館は付属幼稚園として使われていましたが、1976(昭和42)年頃、洋館以外の建物は移築または取り壊されました。
2017(平成19)年には国登録有形文化財に登録され、見学会や演奏会などを企画すると町外県外から申し込みがあるほど関心を集めていました。
ただ100年以上の風雪に耐えてきた館も老朽化が進み、修道院では維持管理が困難になり、2年ほど前から現存の危機を迎えようとしていました。
葉山町は皇族や華族、文化人たちの別荘が500棟近くあった歴史があります。別荘文化の町を知っている地元住民や建築の識者、まちづくり団体関係者などにより昨年7月、一般社団法人「La Casa Blanca(ラ・カサブランカ) Hayama」が発足。改修と利活用に向けて、地域を巻き込んだ活動が始まりました。観光庁の助成金(6,000万円)、地元住民らからの寄付(300万円)のほか、地域活性化クラウドファンディング「ハロー!RENOVATION」を活用しての出資(9,800万円)で工事費や設計関連、家具入れ替えなどの資金を調達したそうです。
今年6月2日、関係者、投資家、寄付者らを招き、新生、宿泊できる「別邸」がお披露目されました。

修道院が取り替えていた以前の照明具などは倉庫から元の場所に戻り、竣工当時(大正時代)と思われる物を古道具店主が探したり、修繕したりしたそうです。

■1日限りのイベントは「スペイン」がテーマ
この日は別邸をはじめ葉山の多くの歴史的建物などを長年見守ってきた「葉山環境文化デザイン集団」の代表で、「La Casa Blanca Hayama」の理事でもある高田明子さんにお話を伺いながら撮影しました。その大きな理由は11月9日にイベント『「東伏見宮 葉山別邸」をひらく~再生と完成~』を開催(有料:下記参照)するとのことで見どころを教えてもらうことでした。
新生・別邸に生まれ変わったことで、利用は会員制となりました。会員になることで結婚式や披露宴などのパーティー、ミーティング、宿泊施設などとして非日常的な空間を堪能することができます。ただ、これまでのように町民団体がレンタルスペース料金で借りることはできません。公開される機会は減っています。
高田さんたちは「湘南邸園文化祭2025」の企画として再生した別邸を多くの方に楽しんでもらいたいと企画しました。

キーワードは「スペイン」です。フラメンコやサロンコンサートのほか、スペイン料理やスペインワイン、スペインビールなどが出店します。
ギタリスト、欣侘東生(ごんた のぼる)さんは以前、このホールでコンサートを開き、近隣のホールの中で一番いいと良さを認めての出演だそうです。
もしまだ訪れたことのない方はこの機会に111年の歴史を確かめにぜひ!
ちなみに、何度訪れても、残っていることを確認してしまうのがこれ・・・

そして何度も訪れていたのに、この日の発見はこの椅子のふんわりと沈み込む座り心地。
そういえば、これまで座ったことがなかったんですね。。。

毎回発見のある奥深い館です。
天気が良ければ、ゆがむ窓からの富士山、忘れずに。
◇アクセス
葉山町堀内1968
バス停「向原(むかいはら)」下車すぐ。当日は「あけのほし幼稚園」の園門を入ります↓

この記事を書いた人
Makoto
Writer Makoto
放送作家出身。現在は地域メディア編集長兼ライター。町も人も歴史を大切に、自分史活用推進協議会認定アドバイザーとして自分史作成も手がける。夢の1つはドラムを習うこと。